2012年8月13日(月曜日)16時49分 配信
london.yahoo.co.jp/column/detail/201208050002-number
スポーツナビより
競泳の最終日、最後の最後に魂を揺さぶられるレースが待っていた。
男女の400mメドレーリレーである。
女子は予選を2位で通過、アメリカなどは予選で2番手の選手を使うから参考にはならないが、形として4コースのオーストラリア、6コースのアメリカに挟まれる形でレースを進められたのが日本に味方した。ターゲットを意識しながらレースが出来たからだ。
背泳ぎの銅メダリスト寺川綾、平泳ぎの銀メダリスト鈴木聡美が泳ぎ切った段階では、メダル圏内で来ることは予測できていた。実際に寺川は2位、鈴木が3位でつないだ。ここまでは筋書き通り。踏ん張ったのはバタフライの加藤ゆかと、自由形の上田春佳だ。
「日本が、一番チーム力が高いと信じて泳ぎました」と話した加藤は3位を守り抜き、上田につないだ。
「ドキドキした。前の3人が良い位置で来てくれたので、メダルを絶対に持って帰りたいという気持ちで頑張った」とスタートした上田は、350mのターンで一度は4位に沈んだものの、ラストに力を溜めていた。
歓喜の銅メダルだ。
上田と一緒に練習をする寺川は、4月の選考会の時点から「一緒にメドレーリレーを泳ぎたい」と目的を明確にして、200mはきっぱりと捨てた。その「覚悟」が全員の覚悟につながったかのような銅メダルだった。
女子のレースを見て、刺激を受けたのが男子の4人である。
■ 「メドレーリレーでとてもメダルは期待できない。頭が痛いところです」
4月の国内選考会が終わった時点で、平井ヘッドコーチは男子のメドレーリレーについては悲観的だった。
「バタフライ、自由形がこれではメドレーリレーでとてもメダルは期待できない。頭が痛いところです」
特にバタフライ、自由形の藤井拓郎は個人競技での派遣標準記録を突破できず、メダルは厳しいというのが大方の見方だった。
しかし競泳の掉尾を飾るレースで、チームの結束力が信じられない力を生み出した。
■ 北島が鬼気迫る泳ぎでトップ! アンカーの藤井は……。
まず、入江陵介がいつも通りの滑らかな泳ぎで後半追い込み、アメリカに次いで2位に浮上してタッチ。ここから見せたのが北島である。
今大会、必ずしも納得のレースができなかった北島が飛び込んでから闘志むき出しの泳ぎでグイグイと飛ばす。途中、長年のライバルであるハンセン(アメリカ)に追撃を受けて一度はかわされたものの、ラスト15mの追い込みには鬼気迫るものがあり、日本はトップに立った。
続く松田は、鷲を思わせるような「怪鳥フェルプス」と並んで泳ぎ、鷲にくらいついて2番でタッチ。
この日の殊勲賞はアンカーの藤井だ。
北島によれば「(藤井)拓郎の分析では(ゴールの順位は)3番か4番だった」というほどのデータ好きで、当然本人は2番で泳ぎ切るとは予想していなかった。しかも3位で日本を追うオーストラリアのアンカーは、100m自由形銀メダリストのマグヌッセン。正直、分が悪く、なんとか踏ん張ってメダルを――というのが切なる願いだった。
スタート前、北島に「落ちついていけ」と声をかけられたのが功を奏したのか、後半に粘って、粘って、2位をつかみとったのだ。
平井ヘッドコーチが、後半に力を溜めていた藤井の泳ぎを、「小癪なレースをするねえ(笑)」と評したほどで、「したたかな」泳ぎが出来るアンカーがいたとは想像もつかなかった。
■ 「康介さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」
今大会、競泳のメダル獲得は11個。金メダルが期待されていた北島が2日目にメダルが取れず、重たいスタートとなったが、ひとつずつメダルを積み重ねてムードを上げ、それが最後の男女のメドレーリレーに結実した。
レース後、入江は言った。
「27人で一つのリレーをしていると思っていました」
そして競泳チームの主将を務めた松田は、レース前に入江、藤井とこんなことを話していた。
「康介さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」
そして北島はホッとした表情を浮かべていた。
「本当にみんなのおかげ」
最後のメドレーリレーは日本競泳陣の「結束力」を示した、素晴らしいレースだった。